金曜日の朝 どこまでも純粋な目をした 犬たちが 自分に向かって 尻尾を振る そして 担当の職員が目に涙を溜めながら首を振る・・ どうにも ならない どうにも 出来ない 現実が そこにあるから・・ そして 犬たちは 悶え苦しみながら 倒れて行く 尻尾の代わりに 手足を振るわせながら・・。 Ganman 平山さんのFacebookの投稿記事には、いつも心を揺り動かされる。 時には、目を覆いたくなるような映像や写真がそこにある。 人間に殺処分される犬や猫。 わたしたちが、見たくない現実をつきつけてくる。 平山ガンマン 57歳。 数年前までは、ごく普通のサラリーマン。 今は、動物殺処分ゼロを目指す動物愛護家。 「私が50歳になったころ、偶然インターネットで犬の母と子が殺処分される写真を見てショックを受けたのです」 子供のころから家には犬や猫がいる家庭に育ったという。 成人し、働き出してからはペットを飼ったことがなかったが、その写真は動物好きの彼の本能に訴えかけてきた。 「どうして人間がこんなふうに命を奪っていいのだろう」 「どうしてこんな残虐な殺し方をするのだろう」 「何かしなくては」 「日本から殺処分をなくしたい」 そして、平山さんは動物愛護活動に目覚めた。
週末動物愛護活動の現場
まずは、近所の動物愛護センターに連絡をし、センターの掃除のボランティアをしたり、保健所に収容されている犬を預かった。 動物を愛護するはずの動物愛護センターで見たものは、悲しい現実。 併設された建物は、殺処分所だった。 行き場のない犬や猫は、4つの部屋に分けられ収容されていた。 収容されて1日目の部屋。2日目の部屋。3日目の部屋。そして4日目の部屋。 そこに5日目の部屋はなかった。 4日目の部屋の次は、ガス室だった。 平山さんは、泣きわめく犬の声を聞いた。苦しみ、叫び、そして静寂...。 のたうちまわって、あまりの辛さに歯を食いしばり、口をかみきって、口のまわりを血だらけにして死んでいった犬の姿を見た。 人間の身勝手で捨てられた犬や猫が、何の悪いことをしたのだろうか。 人間は、こんなふうに動物の命を奪っていいのだろうか。 この様子を見た子供たちは、どう思うだろうか。 「大人って簡単に動物を殺すんだ」 「動物って簡単に殺していいんだ」 そう思った子供たちは、どう育っていくのだろうか。 命の大切さをわかってくれるだろうか。 自己中心的な大人にならないか。 いろいろな思いが心の中を駆け巡った。 平山さんは、いてもたってもいられなくなった。 どの犬も猫も助けてあげたい。 だけど、それは不可能だった。 あまりにもたくさんの命がそこにあった。 とても歯がゆかった。 情けなかった。 殺処分はあってはいけない。 それだけは、明解だった。 そしてまた、ショックなニュースに出会った。 東北大震災から1年たったころのことだった。 福島原発事故被災地の犬や猫のあまりにも悲惨な状況を知った。 住民は避難したが、ペットは置き去りになっているという。1年たつというのに、200匹の犬が取り残され、無人の家で鎖につながったままになっているという。避難所では犬は飼えない。多くの住民は老齢で、なかなか餌やリにも戻れない。1年間も孤独と飢えと戦っている犬がいるというのだ。 平山さんは、いてもたってもいられずに、犬に水と餌をあげにいくことにした。 毎週末、千葉から福島の人っ子ひとりいない村へ往復8時間かけてでかけていった。 寒暖が厳しい土地柄、外につながれた犬には過酷な状況だった。鎖につながっているからサルやイノシシなどに攻撃を受け、倒れる犬もいた。生きていられても孤独のストレスは言葉にならない。空っぽの餌の器を噛み続ける犬。平山さんが来ると喜び、帰る時は悲しそうに泣く。
餌よりもなによりも平山さんが来てくれて喜ぶ無人の家につながられた犬

寒暖の厳しい土地柄。冬の餌やリは大変だ
被災動物保護施設「福光の家」設立
2年間つづいた週末の餌やり。 納得のいかない週末の餌やり。 週末ごとにやってきても死んで行く犬や猫。 「動物は、飼い主にゆだねている。飼い主の責任」 そういう行政。しかし往復3時間かかる避難所からの餌やりは大変だ。 「これは、現地に犬猫の保護施設が必要だ」 平山さんは、facebookで呼びかけた。 「福島の動物たちを救おう」と。 そして、決断の時がきた。 31年間のサラリーマン生活にピリオドを打ち、平山さんは、福島県の飯館村に民間の力だけで被災動物保護施設を立ち上げた。facebookで寄付とボランティアを募り、動物を愛する人たちの善意でできた動物たちの家は、「福光の家」と名づけられた。 飼い主に許可をもらえた犬や猫は、福光の家で無料で面倒を見ることに。つながられたまま生きていかなきゃならない犬には餌やリをする。ボランティア運営ですべてを寄付でまかなう。飼い主からはお金はもらわない。 被災地計画区域での平山さんたちの活動は、行政からは「前例がないから許可はできない」といわれている。しかし、前例のないような事態が起きたのだ。そんな中でも生き続ける命を見て見ぬふりはできなかった。 現在、福光の家には、30匹以上の犬がボランティアさんに愛されて暮らしている。 そしてまだ80匹の犬は、無人の家につながれたままだ。
平山さん手書きの、つながられている犬ロケーションマップ。これを頼りにボランティアさんが交代で餌をあげに行く
平山さんの目指すこと
We can judge the heart of a man by his treatment of animals. 動物の扱いかたを見ていれば、その人の心を判断することができる。 そう、18世紀の哲学者、カントもいっている。 平山さんは、動物にやさしい世の中は、人も住みやすい世の中になると信じている。 何よりも、命の大切さを伝えたい。 そのために、日本を殺処分ゼロの国にする。 それが平山さんが目指すこと。 そのためには、やらなくてはならないことがたくさんある。 飼い主がいない犬や猫が暮らせる施設をつくり、里親制度を充実させる。 パピーミルの規制 飼い主の教育―命を大切にできないのなら飼わない。生ませない。 避妊手術の推進 殺処分の現状を知ってもらうこと 殺処分寸前だった犬が、災害救助犬として活躍をしている例がある。 殺そうとしていた犬に、人間が助けられているのだ。 お互いの命を大切にしようじゃないか。 日本人ひとりひとりの意識の向上が求められる今、 平山さんは、そんなメッセージを込めた10万人ちらしプロジェクトを始めようとしている。
保健所からレスキューした犬を遠距離ドライブで新しいホームへ