GoGetterz Voice 新企画 The Voicers Report は、世界各地で活躍する10人のゴーゲッターで構成された The Voicers が各々の活躍の現場から情報発信をしていきます。 今回は、シリコンバレーのスポ根起業家こと宮田徹さんです。 「シリコンバレー」 と 「スポコン」 という、なんとも不釣り合いなタイトルを冠した私は、中学生時代からの憧れの地である米国西海岸に、昨年44歳にして渡ってきました。 そして45歳になった今年は、この夢の地で新たな起業に向けて準備を調えています。 そんな私が経験する(した)様々なストーリーや見聞きした出来事を、「起業家」 的な視点から皆さんと共有させて頂くのが、このコラムです。

荒涼とした大地の只中に、研究所やR&D施設を併設するハイテク企業が軒を連ねるシリコンバレー
シリコンバレーに見る「不釣り合い」の融合
第一回のテーマは、「不釣り合い」 の融合です。 「シリコンバレー」 と 「スポコン」 の何が不釣り合いかと言うと、皆さん薄々とお感じの通りです。 「シリコンバレー」 のイメージは、優秀なエンジニア達が繰り出す先端的なテクノロジーに裏打ちされた新しいサービスが、生き馬の目を抜く素早さで世界中に送り出され、世の中をアッと言わせる仕掛けが生まれるベンチャー企業のメッカ。 あるいは、日本が強みを持つ製造業において、特に半導体関連企業が集結し、斬新な製品を次々と生み出すテクノロジーの聖地と言える場所。 こんなイメージ。 一方で 「スポコン」 と言えば、桜木健一演ずる 「柔道一直線」、或いは 山下真司の 「スクール☆ウォーズ」、最近では佐藤隆太の 「Rookies」 に至るまで、エンジニアリングやテクノロジーどころか、モノゴトの理屈なんか全く関係なく、正に精神論、いや、ど根性で全てをポジティブに解決してしまう、超人的な世界観であろう。 更には、スポーツという現実では厳しい世界において、No.1という金字塔に至るプロセスを、汗と涙という絶対的なシンボル・アイテムを駆使して、とってもシンプル(単純)に成し遂げてしまうサクセス・ストーリーなのである。 やっぱり 「シリコンバレー」 と 「スポコン」 とは、どうにも不釣り合いな気がする。 ところが、である。 今日の起業とは、変わってきていると私は思う。 と言うのも、(日本に限っただけでも)高度成長期やバブル経済、或いはポスト・バブルと言われた様々な経済環境の変化を乗り越え、星の数ほどの企業が生まれ、今でも誕生と消滅を繰り返している。 つまりは、“あたりまえ” に考えつく製品やサービスは、既に世の中に生まれ尽くしてしまっているし、(恐らく)今後も生まれ続け、そして死に続けるのであろう。 私自身、父が自営業だった事もあってか、小学生の頃に「あーあ、僕が大人になった時に、新しく自分が作る会社(新しい事業を生める隙間)なんて、もう無くなっちゃっうじゃんか」 と、アレキサンダー大王のごとき悲しみに包まれた、とまでは言わないけれど、しかし何とも言えない閉塞感を感じた記憶がある。 ところが、サンフランシスコや、俗にベイエリアと呼ばれるエリアも含めたシリコンバレーでは、ここ数年に至っても尚、世界中で喜ばれ、称賛される新たなサービスを提供する新しい会社が次々と生まれている。 そして、この革新的で優れたサービスに共通する概念こそ、「不釣り合いの融合」なのではないかと、私は見ている。 つまり、一見釣り合わなそうな、ミスマッチと思しき概念や相反しそうな事柄が、相互に溶け合い絡み合うことで、新たな一つの価値を生んでいる。 そう、誰もが 「常識的には、それはないでしょう」「慣習的にも、難しいでしょう」 と思っている “あたりまえ” の考え方を覆し、「こんな事が実現されたら良いのになぁ」 という価値を生み出すからこそ、今の世の中で新しい価値となるのである。 例えば、『Airbnb』 や 『Uber』 などがその一つ。
Airbnb本社のロビー。開放的で落ち着く雰囲気づくり
各サービスの詳細な説明は割愛させて頂くけれど、これらは一般的に 「シェアリング・エコノミー」 と呼ばれるサービスである。
簡単に言えば 「使わない資産を持つオーナー」 と 「一時的に資産を使いたいユーザー」 をマッチングするサービスである。
使用していない資産を有効活用し、使いたい人にシェアするのは、とっても便利でエコロジー。
更には、オーナーには収入が生まれ、ユーザーの支出は既存サービスよりも経済的。
であれば、ある意味では “あたりまえ” なのだ。
では、何が不釣り合いなのかと言えば、それらが提供した資産とサービスの本質であろう。
自分の家やクルマという大切な資産に、見知らぬ他人を泊めたり乗せたりなど、およそ “あたりまえ” には考えられない。
ましてや(だからこそ?)ホテルやタクシーなど、既にプロフェッショナルが提供する施設やサービスが存在し、市場に溢れているのだから。

サンフランシスコの Uber 本社
例えば、『Uber』 を例に考えてみると、「マイカーを運転する、一般のドライバー」 が、そのまま 「タクシーを運転する、プロの運転手」 に疑似的に様変わりするのだ。
あるいは、「道端に立つ、見知らぬ通行人」 が、突然 「お客様」 になるわけだから、これはちょっと考えると恐ろしいサービスだ。
なぜって、お互いに相手が誰だか分からない訳だし、命を預けるに等しい相手が素人なのであるから。
しかし、もう少し考えてみよう。
皆さんにも、こんな経験はないだろうか。
タクシーに手を挙げ、乗車したが早いか行先も告げぬうちに 「わたくし新人でございますので、道をお伺いしてもよろしいですか?」 などと涼しい顔で宣うプロの運転手さまに巡り合ったこと。
または、アクセルとブレーキの急な踏み込みにヘッドバンキングしながら、加齢臭もあいまって具合が悪くなったこと。
そしてそして、酔って拾ったタクシーにさんざ回り道され、法外な値段のレシートに翌朝驚かされたこと。
果たして彼らは、安全で快適なプロ・ドライバーだろうか。
更に本質について、もっとよく考えてみよう。
彼らの事を、我々は知っているのか。
あるいは、彼らは我々を知っているのか。
もちろん、偶然がもたらす奇跡的な確率以外では、答えはNOだ。
では、何が担保されるかで言えば 「タクシー会社が保有・管理する情報と資産」 であるが、自動車の点検状況や走行距離などの安全性を把握した上で乗車できるわけではないし、ドライバーの素質や能力も、我々は乗車後にしか知る術はない。
更に、これらはタクシー・サービスを提供する側だけを特定する条件であって、ドライバーにとっては乗車する側の 「お客様」 が全く誰だか知らずに乗せるのであるから、ドライバーこそ命を懸けているのかも知れない。
実際に、無賃乗車で料金を取りッぱぐれたり、派出所に直行なんていうケースもある。
あるいは、大事な売上金を奪い、運転手を殴って逃げるなどの罪を犯す輩までいる。
ハナシが少々横道に逸れたけれど、つまりは 『Uber』 が提供したのは、これらの既存のサービスに対する顕在的・潜在的な、提供者と利用者の双方の不安や問題点を改善し、より使いやすく安価なサービスを求めるニーズに応えるために、考えに考え抜いた結果、常識を覆す 「不釣り合いの融合」 という概念から生まれた新しい価値ではなかろうか。
彼らが実現したのは、「自分のクルマで、自由な時間にお金を稼ぎたい一般ドライバー」 と、「いつでも気軽に、便利で安全そうな交通手段を、安く利用したいユーザー」 という欲求を繋げるサービスだ。
運転手の評価はタクシー会社ではなく、過去に乗車したユーザーが評価したレビューで確認できて、選択も可能である。
車も然り。利用用途や人数に応じて、ある程度選択できる。
料金も安い。
Google Map等の地図サービスで行先をお互いに管理できるから、いわゆる 「ぼったくり」 に遭遇する心配もない。
また、ドライバー側もユーザーのリクエストに応じる際に、ユーザー自体の評価を見ることができる。
乗せたくない客のリクエストには、応えなければよい。
そして、ドライバーとユーザーの双方が、銀行口座やクレジットカードなどの情報を含めて本人確認が出来ている。
つまりは、一見するとミスマッチと思しきサービスだが、実は生活者のニーズと心理を見据えて、精緻にマーケティングされた上で打ち出されたサービスなのであろう。
インターネットやスマフォなどのテクノロジーを上手に活用して。もちろん、想定外の様々な課題も出てくるだろうし、法律などとの整合も取る必要はある。
しかしながら、失敗を恐れずに、生活者/ユーザーのニーズにマッチしそうであれば、“とりあえずは、やってみる” のである。それから考え、対応し、改善しながら成長してい行くのだ。
しかも、サービスを改善するのは提供者だけではなく、ユーザーも当事者として加わるのである。
レビューしたり、要望を出したりと。なぜなら、更なるサービスレベルの向上を求めるから。
こういう文化が、ここシリコンバレーにはあるから、不釣り合いの融合から新たな価値が生まれ、世の中に受け入れられるレベルに発展していくのだと思う。